電子サーマル(Pr.9)とは?三菱FR-E800での設定方法と過負荷保護の仕組みを解説

電子サーマル(Pr.9)とは?三菱FR-E800での設定方法と過負荷保護の仕組みを解説

カテゴリ: 電気・FA技術
タグ: 電気設計

インバータの設定で見落とされがちなのが、Pr.9「電子サーマル」 です。

現場では、インバータ交換時に初期値のまま運転している、モータ交換後に設定変更していない、設定値の決め方が分からない、といったケースをよく見かけます。

しかし電子サーマルは、モータを過負荷から保護する重要な機能です。設定を間違えると、モータ焼損・頻繁なトリップ・保護機能が働かないといったトラブルにつながります。

この記事では、FR-E700・FR-E800で共通して使用される電子サーマル機能について、現場目線で解説します。

インバータ全体の仕組みや学習順を知りたい方は、まず「インバータ完全ガイド」をご覧ください。


電子サーマルを30秒で理解する

電子サーマルとは、モータの過負荷保護機能です。モータ電流から温度上昇を疑似的に計算し、過負荷状態→モータ温度上昇→保護動作という流れで動作します。

FR-Eシリーズでは、Pr.9にモータ定格電流を設定することで保護レベルを決定します。


なぜ電子サーマルが必要なのか

モータは定格電流を超えて運転し続けると発熱します。例えば、モータ定格電流3.0Aのモータに5Aの電流が流れ続けると、巻線温度が上昇し絶縁劣化が進みます。そのまま運転を続けると、モータ焼損につながる可能性があります。

電子サーマルは、この過負荷状態を検出してモータを保護するための機能です。


Pr.9の設定方法

設定は非常に簡単です。まずモータ銘板を確認します。

例えば、出力0.75kW・電圧200V・定格電流3.4Aであれば、Pr.9=3.4に設定します。

基本的には、モータ銘板に記載された定格電流値を入力すると覚えておけば問題ありません。

Pr.9は、FR-Eシリーズの立上げ時に最も設定ミスが多いパラメータのひとつです。インバータ交換時に初期値のまま運転してしまい、E.THMアラームやモータ保護不足につながるケースを現場で何度も見てきました。インバータ本体だけを交換した場合でも、モータ銘板とPr.9の設定値が一致しているか必ず確認することをおすすめします。


Pr.9の初期値のままで大丈夫?

意外と誤解されやすいポイントです。Pr.9の初期値は、モータ定格電流ではなくインバータ定格電流です。

インバータとモータの容量が同じなら問題にならないこともありますが、インバータ0.75kW・モータ0.4kWのような組み合わせでは適切な保護にならない可能性があります。特に中古インバータや設備改造時は、モータ銘板を確認してPr.9を見直しましょう。


よくある設定ミス

モータ容量を入力してしまう

初心者によくある間違いです。例えば0.75kWのモータだからPr.9=0.75と設定してしまうケースがあります。しかしPr.9に入力するのはモータ電流[A] です。モータ容量ではありません。

モータ交換後に変更しない

例えば0.4kW→0.75kWへ変更した場合、モータ定格電流も変わります。このときPr.9を変更しないと、誤検出や保護不足の原因になります。

設定値が小さすぎる場合

例えばモータ定格電流3.0AなのにPr.9=2.0Aとしている場合です。正常運転中でもE.THMが発生しやすくなります。現場では「なぜか頻繁に止まる」という症状になります。

設定値が大きすぎる場合

こちらの方が危険です。例えばモータ定格電流3.0AなのにPr.9=5.0Aと設定した場合、本来保護すべき過負荷状態でも停止しない可能性があります。結果として、モータに大きなダメージを与えることになります。


E.THMとは?

電子サーマル保護が動作すると、FR-EシリーズではE.THMアラームが発生します。主な原因は次のとおりです。

  • モータ過負荷
  • 機械の引っ掛かり
  • モータ異常
  • Pr.9設定ミス

E.THMが発生したら、まずPr.9の設定値とモータ銘板を確認しましょう。

E.THMはなぜすぐ発生しないのか?

電子サーマルは、電流値だけで判断しているわけではありません。実際には、電流値×継続時間を考慮して保護動作を行います。

例えば、一瞬だけ過負荷であれば停止せず、過負荷状態が長時間継続した場合にE.THMが発生します。そのため、「電流は高いのにすぐ止まらない」という動作は異常ではありません。

E.THMが発生したときの確認手順

E.THMが発生した場合は、やみくもにリセットするのではなく、原因を順番に切り分けることが重要です。確認の流れは次のとおりです。

①実測モータ電流を測定
  ↓
②モータ銘板の定格電流を確認
  ↓
③Pr.9の設定値を確認
  ↓
④機械的な負荷増加がないか確認
  ↓
⑤モータやベアリングの異常を確認

現場では、Pr.9の設定ミスよりも、コンベヤの引っ掛かり・ベアリング劣化・搬送物の過積載などによる負荷増加が原因となっていることも少なくありません。まずは実測電流を確認することをおすすめします。


私が現場で確認しているポイント

インバータ交換時や立上げ時は、①モータ銘板→②Pr.9→③実測電流の順で確認しています。

実際には、モータ故障よりもPr.9未設定または設定値間違いの方が多い印象です。


FR-E800立上げ時に確認したいパラメータ

私が最低限確認するのは次の5項目です。

Pr.番号名称
Pr.3ベース周波数
Pr.7加速時間
Pr.8減速時間
Pr.9電子サーマル
Pr.79運転モード

この5項目を確認しておけば、ほとんどの設備立上げは対応できます。


FR-E800には第2電子サーマルもある

FR-E800には、Pr.51「第2電子サーマル」という機能があります。定格電流の異なるモータを1台のインバータで切り替えて使用する場合に利用します。

一般的な設備ではあまり使用しませんが、モータ切替設備や特殊な試験装置などでは便利な機能です。通常の設備ではPr.9のみ設定しておけば十分です。


よくある質問

電子サーマルとサーマルリレーは何が違いますか?

どちらも過負荷保護を目的とした機能です。サーマルリレーは外付け機器、電子サーマルはインバータ内蔵機能という違いがあります。インバータでモータを駆動する場合は、電子サーマルを使用するケースが一般的です。

電子サーマルはOFFにできますか?

可能です。Pr.9に0を設定すると電子サーマルを無効にできます。ただしモータ保護機能が失われるため、外部サーマルリレーを使用する場合や特殊モータを使用する場合などを除き、基本的には推奨しません。なお、インバータ内部の出力トランジスタ保護機能は別途動作します。

モータブレーカと電子サーマルは両方必要ですか?

必要です。モータブレーカは短絡保護、電子サーマルは過負荷保護が主な役割です。それぞれ保護対象が異なります。

サーマルリレーと併用できますか?

可能です。ただし、電子サーマルとサーマルリレーの設定値が大きく異なると、どちらが先に動作するか分かりにくくなります。設備設計時には保護協調を考慮して設定しましょう。

サーボモータでも電子サーマル設定は必要ですか?

通常のサーボシステムでは不要です。電子サーマルは主に、インバータ+誘導モータの組み合わせで使用する保護機能です。


まとめ

電子サーマルはモータを過負荷から守る重要な保護機能です。覚えておきたいポイントは次の6つです。

  • Pr.9にはモータ定格電流を設定する
  • Pr.9初期値はインバータ定格電流である
  • モータ容量ではなく電流値を入力する
  • モータ交換時は設定値も見直す
  • E.THMは電流値だけでなく継続時間も考慮して動作する
  • 大きすぎる設定値はモータ保護不足につながる

インバータ立上げでは、Pr.79と並んで必ず確認したい重要パラメータです。


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WRITTEN BY

TKappy

関西在住の生産技術エンジニア。PLCプログラミング、産業技術、ガジェットの知見を「TECH & ROOTS」として発信しています。詳しく見る

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