【現場実体験】産業用ロボットは経年劣化で位置ズレするのか?15年使用した産業用ロボットで発生した実際の不具合事例

【現場実体験】産業用ロボットは経年劣化で位置ズレするのか?15年使用した産業用ロボットで発生した実際の不具合事例

カテゴリ: 電気・FA技術
タグ: 比較・選定

生産設備のトラブル調査をしていると、「ロボットがズレるなんてことあるの?」という話になることがあります。

ロボットは高精度な設備で、一度ティーチングした動作を何万回、何十万回と繰り返します。そのため「ロボットはいつまでも同じ位置に動く」というイメージを持っている方も少なくありません。

私自身もこれまで数多くのロボット設備を扱ってきましたが、実際の現場ではロボットの経年劣化が製品不良につながるケースは存在します。

今回は、実際に発生した「15年間使用したロボットの位置ズレ疑い」の事例を紹介しながら、次の3点を解説します。

  • ロボットは本当にズレるのか
  • どの軸が影響するのか
  • どのように確認すればよいのか

発端は部品の圧入不良

ある設備で製品の寸法不良が発生しました。不具合の内容は、部品の圧入量不足です。

調査を進める中で分かったのは、ロボットが保持している部品の位置が約1mm低いと不良が発生するということでした。

1mm程度なら影響が小さいように感じるかもしれませんが、圧入工程では1mmが致命傷になることがあります。特にピンの圧入工程のような、勘合代に余裕のない工程では、圧入不足・圧入抵抗増加・部品変形・外観不良につながるため、非常に重要な寸法です。


使用していたロボットは15年選手

今回の設備で使用していたロボットの使用期間は約15年でした。

15年というと、自動車でいえばかなりの長寿命です。ロボット自体はまだ動作していますし、エラーも発生していません。しかし、動くことと精度が維持されていることは別問題です。

最初は治具摩耗・ワーク寸法異常・ハンド変形なども疑いました。実際、現場ではロボット以外が原因であることも多いためです。


メーカー点検で判明したこと

ロボットメーカーによる点検を実施した結果、J2軸・J3軸のガタが大きくなっているとの見解が示されました。

この結果を聞いて、「なるほど」と感じました。垂直多関節ロボットにおいて、J2軸とJ3軸は人間でいう肩・肘に相当する軸です。そのため、この2軸に発生したわずかなガタでも、ロボット先端では意外なほど大きな位置ズレになります。

J2・J3軸のガタはどこに現れるのか

イメージとしては次のようになります。

J1(旋回)J2(肩)J3(肘)教示位置(Z=300)実際の位置(Z=299)TCP

J2・J3軸のガタにより、教示位置(点線)に対して実際の先端位置(塗りつぶし)がわずかに下がる様子

J2やJ3が摩耗すると、アームがわずかに垂れます。重要なのは、画面上のXYZ座標は変わらないということです。

例えば、X=100・Y=200・Z=300という教示点があったとしても、コントローラは「Z=300へ行った」と思っています。しかし実際には、Z=299になっている場合があります。

つまり、ロボットは同じ座標へ行ったつもりだが、実際には先端が下がっているという状態です。今回の現象である「部品位置が約1mm低いと不良になる」という条件と非常によく一致していました。


どのメーカーでも発生するか

この現象は特定のロボットメーカー特有ではありません。構造上、垂直多関節ロボットである以上、FANUC・安川電機・NACHI・三菱・DENSOなど、どのメーカーでも起こりうる現象です。

原因の多くは、減速機摩耗・ベアリング摩耗・バックラッシュ増加です。減速機やベアリングの経年摩耗による位置精度の低下は、垂直多関節構造を持つロボット全般に共通しうる構造的な課題だと考えています。


左右方向にズレる場合は?

今回は-Z方向の変化が疑われました。では左右方向へズレるなら何が原因でしょうか。

原因内容
J1軸のガタ旋回軸であるJ1が摩耗すると、X方向・Y方向へ位置ズレが発生します
J4〜J6軸のガタ手首軸の摩耗です。長いハンドを装着している場合、わずかな角度変化でも先端では大きなズレになります
ハンド取付部実は非常に多い原因です。ボルト緩み・ブラケット変形・ツール取付面のガタなどで左右方向へ逃げることがあります
治具摩耗ロボットがズレたと思ったら、実際には治具や位置決めピンが摩耗していたというケースも珍しくありません

点検で確認する方法

今回のようなケースでおすすめなのは、以下の3つの方法です。

方法1:ダイヤルゲージ測定

ロボット先端へダイヤルゲージを当てて確認します。最も分かりやすく定量的です。

方法2:基準ピン管理

設備内に基準ピンを設置します。定期的に同じ教示点へ移動し、隙間・接触位置を確認します。

方法3:新品機との比較

今回のように代替機がある場合は非常に有効です。同じハンド・同じ治具・同じ製品で比較すれば、どの程度ズレていたかが分かります。


今回の対応

今回はオーバーホールではなく、遊休機として保管されていた別の機体へ交換することになりました。

幸運なことに未使用機であったため、原因切り分けとしても非常に有効な手段です。交換後に部品の圧入位置・圧入量・不良率が改善すれば、J2・J3軸のガタが主原因だったと判断できる可能性が高くなります。


まとめ

今回のトラブルから改めて感じたのは、**「ロボットは壊れなくても精度は劣化する」**ということです。

特に使用15年を超える設備では、J2・J3軸の摩耗・減速機のバックラッシュ増加・ベアリング劣化によって、先端位置が少しずつ変化している可能性があります。

普段は気付かなくても、製品品質が厳しい工程では1mmの変化が不良に直結します。ロボットに異常がなくても、

  • 最近位置補正が増えた
  • 圧入が渋くなった
  • 良品率が下がった

という兆候があれば、一度精度確認を行う価値があります。

今回の事例が、同じようなトラブルで悩む設備担当者の参考になれば幸いです。


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tkappy

WRITTEN BY

TKappy

関西在住の生産技術エンジニア。PLCプログラミング、産業技術、ガジェットの知見を「TECH & ROOTS」として発信しています。詳しく見る

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