Mech-Mindを使った3Dピッキング実践レビュー|ばら積みワークの認識と吸着を検証

Mech-Mindを使った3Dピッキング実践レビュー|ばら積みワークの認識と吸着を検証

カテゴリ: 電気・FA技術
タグ: 比較・選定

はじめに

製造現場では、箱やコンテナの中に部品がバラバラに入った状態から、作業者が1個ずつ取り出して次工程へ供給する作業があります。

この作業は一見単純に見えますが、自動化しようとすると意外に難しい工程です。

理由は、箱の中の部品が毎回同じ位置・同じ向きで入っているわけではないからです。

  • 部品の向きが毎回違う
  • 部品同士が重なっている
  • 下側の部品が隠れて見えにくい
  • 箱の底や側面に近い部品が取りにくい
  • ロボットハンドが箱や他の部品に干渉する
  • 吸着位置がずれると取り出しに失敗する

このような、箱の中にばら積みされた部品をロボットで取り出す作業は、英語では Bin Picking と呼ばれます。

ここでいう Bin は、ガラス瓶の「ビン」ではなく、部品を入れる箱・コンテナ・通い箱の意味です。一般的には、ロボットがコンテナ(いわゆる「ビン」)から部品を取り出す自動化プロセスとして説明されます。

日本語では「ビンピッキング」と表記されることもありますが、初めて聞く人には分かりにくいため、この記事では主に 3Dピッキング または ばら積みピッキング と表現します。

今回は、Mech-Mindの3Dビジョンシステムを使い、ばら積みされた長尺ワークをロボットで取り出す検証を行いました。

この記事では、カタログ的な説明ではなく、実際に検証して分かったことを中心にまとめます。ロボット座標系の基礎知識は産業用ロボットの直交座標系メーカー比較でも解説しています。


3Dピッキングとは

3Dピッキングとは、3Dカメラで部品の位置・高さ・向きを認識し、ロボットが部品を取り出す自動化技術です。

特に、箱やコンテナの中に部品がランダムに入っている場合、2Dカメラだけでは高さや重なりを判断しにくいため、3Dカメラを使うことが多くなります。

一般的な流れは次のようになります。

箱の中に部品がばら積みされている
    ↓
3Dカメラで箱の中を撮影する
    ↓
画像処理ソフトが部品の位置・向きを認識する
    ↓
ロボットが取り出せる部品を選ぶ
    ↓
吸着パッドやチャックで部品を取り出す
    ↓
次工程へ置く

ロボットによるビンピッキングは、コンテナ内にランダムに積まれた部品を、3Dビジョンや把持経路計画を使ってロボットが1つずつ取り出す作業として一般に説明されます。

Mech-Mindも、3Dビジョンシステムによりランダムに積まれた部品を認識し、深い箱の中から部品を取り出す用途を紹介しています。


今回のテスト目的

今回の目的は、Mech-Mindを使った3Dピッキングで、どの認識方式が現場で使いやすいかを確認することです。

特に確認したかったのは、次の4点です。

  1. ばら積みされたワークを安定して取り出せるか
  2. 円柱モデルと実物点群モデルで差が出るか
  3. 長手方向の位置ずれが実用上問題になるか
  4. 吸着パッドの違いで成功率やサイクルタイムが変わるか

3Dピッキングでは、単に「認識できるか」だけでは不十分です。

現場で重要なのは、次のような点です。

  • 何分で取り切れるか
  • 何回撮影が必要か
  • 吸着失敗がどれくらいあるか
  • 途中でワークを落とさないか
  • 最後に箱の底に残ったワークまで取れるか
  • 異常時に安全にリトライできるか

そのため、今回は連続ピッキングを行い、撮影回数・所要時間・吸着状態を確認しました。


テスト対象ワーク

今回の対象は、細長い円筒状の長尺ワークです。

箱の中に複数本がランダムに入った状態から、ロボットで1本ずつ取り出すことを目的に検証しました。

このような長尺ワークでは、短手方向の位置は比較的合わせやすい一方で、長手方向の位置ずれが課題になりやすいです。

今回の検証でも、円柱モデルで認識した場合、長手方向に最大±20mm程度のずれが確認されました。

ただし、吸着位置をワーク中央付近に設定していたため、取り出し自体は成立しました。

ここが重要です。

3Dピッキングでは、認識位置の精度が多少ずれていても、吸着位置やハンド形状が許容できれば、実用上問題ない場合があります。


使用した認識方式

今回は、主に次の2つを比較しました。

認識方式内容
円柱モデルワークを単純な円柱形状として認識する方式
実物点群モデル実物の3D点群形状を使って認識する方式

一般的には、実物点群モデルの方が実際の形状に近いため、精度が高そうに見えます。

一方で、処理が重くなったり、ワークの見え方によって認識が安定しない可能性もあります。

今回の検証では、この2つを実機で比較しました。


テスト結果

実測結果は以下の通りです。

条件本数撮影回数時間備考
実物点群モデル 1回目150本-30分49秒初回テスト
実物点群モデル 2回目150本238回-吸着失敗によるリトライあり
円柱モデル 1回目150本-22分58秒実物点群より短時間
円柱モデル 2回目150本163回19分29秒再テスト結果
吸着パッド変更後150本相当167回20分44秒120秒の停止時間を含む

吸着パッド変更後の20分44秒には、吸着が外れて制御条件が外れたことによる120秒の停止時間が含まれています。

停止時間を除くと、計算上は18分44秒です。

この結果を見ると、今回の条件では、円柱モデルの方が処理時間・撮影回数の面で有利でした。

特に円柱モデルの再テストでは、

  • 撮影回数:163回
  • 時間:19分29秒

という結果でした。

150本に対して撮影回数163回なので、1本あたりの撮影回数は約1.09回です。

今回の条件では、認識と吸着が比較的安定していたと考えられます。


円柱モデルの評価

今回の検証では、円柱モデルがかなり有力でした。

良かった点

  • 処理が速い
  • 撮影回数が少ない
  • 150本を短時間で取り切れた
  • 吸着位置を中央にすれば、長手方向の多少のずれを吸収できた
  • 実物点群モデルと比べて結果が安定した

特に大きかったのは、サイクルタイムです。

実物点群モデルでは30分49秒かかったのに対し、円柱モデルでは最短19分29秒まで短縮できました。

同じ150本を取る場合、約11分以上の差があります。

現場設備として考えると、この差はかなり大きいです。

気になった点

一方で、円柱モデルには長手方向のずれがありました。

今回の検証では、最大±20mm程度のずれがありました。

ただし、ワーク中央付近を吸着する設定だったため、取り出し自体には大きな問題は出ませんでした。

つまり、円柱モデルは「端部位置まで高精度に合わせる用途」には注意が必要ですが、中央吸着で取り出す用途であれば、十分使える可能性があります。


実物点群モデルの評価

実物点群モデルは、実物形状を使うため、最初は精度面で期待していました。

しかし、今回の検証では、円柱モデルに対して明確な優位性は感じませんでした。

良かった点

  • 実物形状に近いモデルで認識できる
  • 複雑形状のワークでは有効になる可能性がある
  • ワークの形状差を反映しやすい

気になった点

  • 処理時間が長い
  • 撮影回数が増えた
  • 吸着失敗によるリトライが増えた
  • 今回のワークでは円柱モデルとの差が出にくかった

今回の再テストでは、実物点群モデルで150本に対して238回の撮影が発生しました。

円柱モデルの163回と比べると、撮影回数がかなり多くなっています。

撮影回数が増えるということは、認識失敗や吸着失敗によるリトライが増えた可能性があります。

3Dピッキングでは、認識精度だけでなく、撮影回数とリトライ回数がサイクルタイムに直結します。

今回の条件では、実物点群モデルよりも円柱モデルの方が実用的でした。


吸着パッドの比較

今回、吸着パッドも条件を変えて確認しました。

吸着パッドを変更した結果、撮影回数167回、時間20分44秒という結果になりました。

ただし、この時間には120秒の停止時間が含まれています。

停止時間を除くと18分44秒相当となり、サイクルタイムだけを見ると良い結果です。

一方で、吸着が外れて制御条件が外れる停止が発生しました。

ここから分かるのは、単純に時間だけで吸着パッドを判断してはいけないということです。

吸着パッドで見るべき項目は、次の通りです。

  • 吸着成功率
  • 途中落下の有無
  • ワーク姿勢の安定性
  • 複数本吸着の有無
  • 吸着確認後の外れ
  • 箱の底に残ったワークの取りやすさ
  • リトライ時の復帰しやすさ

今回、途中で大きく落下するような問題はありませんでした。

ただし、吸着確認後に外れるケースがあったため、吸着確認後の監視とリトライ条件は見直しが必要です。ロボット・PLC間の異常時の復帰設計についてはPLC異常停止後に安全復帰する設計方法でも整理しています。


今回分かったこと

今回の検証で一番大きな発見は、

実物点群モデルが必ずしも最適とは限らない

ということです。

直感的には、実物点群モデルの方が高精度に見えます。

しかし、今回のような細長い円筒状ワークでは、単純な円柱モデルの方が処理が速く、結果も安定しました。

特に、ワーク中央を吸着できる場合、長手方向に多少のずれがあっても、吸着成功に直結しない可能性があります。

つまり、認識精度を必要以上に追いかけるよりも、次の考え方の方が効果的です。

  • 取れる姿勢を優先する
  • 吸着位置を中央寄りにする
  • 処理が軽いモデルを使う
  • リトライ条件を整える
  • 最後に箱の底に残ったワークまで取れる設定にする

3Dピッキングでは、認識精度だけでなく、取り出しやすさ・サイクルタイム・リトライ性を含めて判断する必要があります。


箱の底に残ったワークを取り出すときの課題

ばら積みピッキングでは、箱の中にワークが多く入っている状態よりも、残りが少なくなった最後の方が難しくなります。

理由は、次の通りです。

  • ワークが箱の底に寝た状態になる
  • カメラから見える特徴が少なくなる
  • 箱の側面や底面の影響を受ける
  • 吸着できる角度が限られる
  • ロボットハンドが箱や周囲のワークに干渉しやすくなる

今回も、最後に箱の底に残ったワークをどのように取り出すかが課題になりました。

ここは、認識モデルだけでなく、取り出し方の考え方も重要です。

例えば、次のような調整が必要になります。

  • 上側にあるワークを優先して取り出す
  • 最後は箱の底に近いワークを優先して取り出す
  • 吸着姿勢を制限しすぎない
  • 箱の側面との干渉を避ける
  • 認識範囲を絞りすぎない
  • 必要に応じて再撮影条件を変える

Mech-Mindは、ビンピッキング用途で経路計画や衝突検出アルゴリズムを特徴として挙げています。ただし、実際の現場では、ワーク形状、箱サイズ、ハンド形状、吸着パッドの条件によって最適値が変わります。


実用化に向けて必要な改善

今回の結果から、実用化に向けて必要な改善点は次の通りです。

1. 吸着確認後の外れ対策

吸着確認後にワークが外れた場合、設備が止まったままになると稼働率が下がります。

そのため、吸着確認後に失敗していた場合は、リトライ信号が入力されていれば再度取り直す仕様が必要です。

理想は、次のような流れです。

吸着動作
↓
吸着確認ON
↓
搬送開始前に再確認
↓
吸着状態OK → 搬送
吸着状態NG → リトライ処理

吸着確認は、1回見て終わりではなく、搬送開始前にも確認した方が安全です。

2. リトライ条件を明確にする

3Dピッキングでは、リトライ設計が重要です。

例えば、次のように分けます。

状態処理
認識できない再撮影
吸着失敗同じ候補で再吸着、または次候補へ
吸着後に外れワーク落下確認後、再撮影
候補なし空箱判定、または作業者確認
複数回失敗確認画面へ移行

何でも即異常停止にすると、設備の稼働率が落ちます。

一方で、無制限にリトライすると、無駄な動作が増えます。

そのため、リトライ回数と停止条件を明確にすることが重要です。この考え方はPLC異常停止後に安全復帰する設計方法で解説しているPLC側の復帰シーケンス設計と共通しています。

3. 円柱モデルを前提に最適化する

今回の結果だけを見ると、円柱モデルをベースに詰めるのがよさそうです。

具体的には、次の方向です。

  • 吸着位置を中央付近に設定する
  • 長手方向のずれを許容する
  • パッド径と吸着位置を見直す
  • 箱の底に残ったワークを取る条件を調整する
  • 失敗時は次候補へ切り替える

実物点群モデルは、より複雑な形状や向き判別が必要なワークで再検討してもよいと思います。


現時点での結論

今回の検証では、現時点の最有力は、

円柱モデル+中央吸着+リトライ条件改善

です。

理由は次の通りです。

  • 150本を最短19分29秒で処理できた
  • 撮影回数が163回と少なかった
  • 実物点群モデルよりサイクルタイムが短かった
  • 長手方向にずれはあるが、中央吸着なら実用上大きな問題になりにくい
  • 吸着パッドを見直すことで、さらに短縮できる可能性がある

一方で、量産設備として考えるなら、以下の確認が必要です。

  • 連続運転での再現性
  • ワークロット違いへの対応
  • 長さ違いワークへの対応
  • 箱の中の残量が少ない状態での成功率
  • 吸着確認後の外れ対策
  • 通信・制御異常時の復帰動作

3Dピッキングは、1回成功しただけでは判断できません。

現場で使うには、失敗したときに止まらず、安全にリトライできる設計が必要です。


まとめ

今回、Mech-Mindを使って、ばら積みされた長尺ワークの3Dピッキングを検証しました。

結果として、今回のような細長い円筒状ワークでは、実物形状を使った点群モデルよりも、単純な円柱モデルの方が処理時間と安定性の面で有利でした。

ポイントをまとめると、次の通りです。

  • ばら積みされた長尺ワークを3Dカメラで認識し、ロボットで取り出す検証を行った
  • 円柱モデルは処理が速く、撮影回数も少なかった
  • 実物点群モデルは必ずしも最適とは限らなかった
  • 長手方向の位置ずれはあったが、中央吸着により取り出しは成立した
  • 吸着パッドの選定と、吸着失敗時のリトライ制御が重要だった
  • 箱の底に残ったワークを取り出すには、認識条件だけでなく取り出し方の工夫も必要だった

3Dピッキングでは、認識精度だけを追いかけると、かえってサイクルタイムが伸びることがあります。

重要なのは、

どれだけ正確に認識するかではなく、安定して早く取り切れるか

です。

今回の検証では、円柱モデルをベースに、吸着位置・吸着パッド・リトライ制御を最適化する方向が、実用化に近いと感じました。


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WRITTEN BY

TKappy

関西在住の生産技術エンジニア。PLCプログラミング、産業技術、ガジェットの知見を「TECH & ROOTS」として発信しています。詳しく見る

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