はじめに
三菱PLCで設備間通信を考えるとき、よく候補に出てくるのが CC-Link IE Field Basic です。
特にFX5シリーズでは、CPU内蔵EthernetポートでCC-Link IE Field Basicを使えるため、追加ユニットなしでPLC間通信もできそうに見えます。
しかし、ここで注意が必要です。
結論から言うと、 CC-Link IE Field Basicは、PLC間通信の本命として考える通信方式ではありません。
CC-Link IE Field Basicの基本的な仕組みや用途についてはCC-Link IE Field Basicとは?できること・できないことを現場目線で解説で整理しています。この記事では、その中でも特に誤解されやすい「PLC間通信」というテーマに絞って、FX5同士をつなぐ場合の具体的な注意点と代替手段を整理します。
結論:ローカル局が使えないのが理由
CC-Link IE Field Basicが主にリモートI/Oやインバータなどのフィールド機器を接続するためのネットワークであり、PLC同士を対等につなぐ「ローカル局」の接続に対応していないためです。CC-Link IE Field Basicではローカル局の接続ができないため、PLC間の通信手段とはならず、入出力ユニットやインバータなどの機器接続に特化している、という解説もあります。
PLC間通信でよくイメージするのは、次のような使い方だと思います。
- PLC-AのD100をPLC-Bへ送る
- PLC-BのM100をPLC-Aで見る
- 互いに運転状態を共有する
- 設備間で起動許可・完了・異常をやり取りする
- 複数PLCで工程状態を共有する
このようなPLC同士のデータ共有には、CC-Link IE Field Basicよりも、SLMP通信やソケット通信などのEthernet通信を使う方が考えやすいです。
CC-Link IE Field Basicは、マスタ局がリモート局を管理するイメージです。PLC同士が対等にデータを共有するネットワークとして考えると、制約にぶつかります。
| 項目 | CC-Link IE Field | CC-Link IE Field Basic |
|---|---|---|
| ローカル局 | あり | なし |
| PLC間通信 | 構成しやすい | 本命ではない |
| 主な用途 | 高速・大規模なフィールド制御 | 小規模なリモートI/O・機器接続 |
| 通信速度 | 1Gbps | 100Mbps |
CC-Link IE Field Basicは、CC-Link IE Fieldの簡易版のように見えますが、ローカル局がないため、PLC間通信の用途では同じようには使えません。
FX5シリーズでは何台まで接続できるのか
FX5シリーズでは、CPUユニットにCC-Link IE Field Basicのマスタ局機能が内蔵されている機種があります。
三菱電機のiQ-Fシリーズ説明では、FX5U/FX5UC CPUユニットはリモート局を最大16台、FX5UJ/FX5S CPUユニットは占有局数の合計で最大8局、FX5-ENETでは最大32台まで接続できるとされています。
⚠️ ファームウェアバージョンに注意
FX5U/FX5UCでこの16台という上限に到達するには、CPUユニットのファームウェアバージョンが1.110以降である必要があります(三菱電機公式FAQより)。1.110未満のファームウェアでは接続台数がより少なくなるため、既設のFX5を流用する場合は事前にファームウェアバージョンを確認してください。
ただし、ここでいう接続台数は、PLC間通信のためのPLC台数というより、CC-Link IE Field Basicのリモート局として接続する機器の考え方です。
そのため、
FX5Uは最大16台接続できる
だからFX5同士を16台までPLC間通信できる
と考えるのは危険です。ここは混同しやすいポイントです。
「Ethernetでつながる」=「PLC間通信できる」ではない
CC-Link IE Field BasicはEthernetを使います。
そのため、見た目としては、
- LANケーブルで接続する
- IPアドレスを設定する
- ハブを使える
- FX5のEthernetポートを使う
という構成になります。
これだけ見ると、PLC間通信にも使えそうに感じます。
しかし、Ethernetで物理的につながることと、PLC間で目的のデータを自由にやり取りできることは別です。
現場では、ここを分けて考える必要があります。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 物理的につながる | LANケーブル・ハブで接続できる |
| 通信規格として使える | 対応プロトコル・局種別が合っている |
| PLC間通信に向く | PLC同士でデータ共有しやすい |
| 保守しやすい | 設定・診断・復旧が分かりやすい |
CC-Link IE Field Basicは、Ethernetを使うFAネットワークですが、PLC間通信のための万能なPLCリンクではありません。
PLC間通信したい場合の候補
FX5同士、または三菱PLC同士で通信したい場合は、目的に応じて通信方式を選ぶ方が安全です。
1. SLMP通信
FX5同士でデータを読み書きしたい場合、まず候補になるのがSLMP通信です。
SLMPは、相手機器のデバイスを読み書きする通信方式として使えます。例えば、相手PLCのDレジスタやMデバイスを読んだり、必要なデータを書き込んだりする用途に向いています。
CC-Link IE Field Basicが周期的なフィールド機器接続のイメージなのに対し、SLMPは要求・応答でデバイスを読み書きするイメージです。具体的な設定手順はSLMP通信の設定手順【FX5実機】で解説しています。
2. ソケット通信
より自由な通信をしたい場合は、ソケット通信も候補になります。
ただし、ソケット通信は自由度が高い反面、通信手順・異常処理・再接続処理を自分で作り込む必要があります。
そのため、単純なPLC間データ共有であれば、まずはSLMPの方が扱いやすい場合が多いです。
3. CC-Link IE Field
本格的にPLC間通信を構成したい場合は、CC-Link IE Fieldを検討します。
CC-Link IE Fieldは、CC-Link IE Field Basicと違い、ローカル局の接続に対応しているため、PLC間通信を構成しやすいです。
ただし、専用ユニットや対応機器の確認が必要になります。
4. CC-Link IE TSN
将来的な拡張性や高速同期、IT/OT連携まで考える場合は、CC-Link IE TSNも候補になります。
ただし、既設設備や小規模なPLC間通信だけで考えると、少し大げさになる場合もあります。
現場でのおすすめ判断
PLC間通信を考えるときは、最初に「何をしたいのか」を整理した方が良いです。
| やりたいこと | 向いている候補 |
|---|---|
| リモートI/Oを増設したい | CC-Link IE Field Basic |
| インバータをネットワーク接続したい | CC-Link IE Field Basic |
| FX5同士でD/Mを少量やり取りしたい | SLMP通信 |
| 複数PLCでデータを周期共有したい | CC-Link IE Field |
| 高速同期・将来拡張を見たい | CC-Link IE TSN |
| 独自データを自由に送受信したい | ソケット通信 |
現場目線では、 リモートI/OならCC-Link IE Field Basic、PLC間通信ならSLMP通信 と考えると分かりやすいです。
具体例:FX5UとFX5UCをつなぐ場合
例えば、主PLCがFX5U、従PLCがFX5UC-32MT/Dという構成を考えます。
やりたいことが、
- 従PLCの運転状態を主PLCへ送る
- 主PLCから従PLCへ起動指令を送る
- 異常コードを共有する
- Dレジスタを数十点やり取りする
程度であれば、CC-Link IE Field BasicよりもSLMP通信を検討する方が自然です。
理由は、やり取りしたい情報がリモートI/Oというより、PLC内部デバイスの共有だからです。
この場合は、
主PLC:SLMPクライアント側
従PLC:SLMPサーバ側
通信内容:Dレジスタ、Mデバイスの読み書き
接続:Ethernetハブ経由
のような考え方になります。実際の設定手順はSLMP通信の設定手順【FX5実機】にまとめています。
一方、従側にリモートI/Oユニットやインバータをぶら下げたい場合は、CC-Link IE Field Basicが候補になります。
注意点:PLC間通信では異常時の設計が重要
通信方式に関係なく、PLC間通信で一番重要なのは異常時の動作です。
例えば、通信が切れたときに、
- 出力をOFFするのか
- 直前状態を保持するのか
- 設備を異常停止するのか
- 自動復帰させるのか
- 作業者リセットを必要にするのか
を決めておく必要があります。
三菱電機のマニュアル系資料でも、ネットワーク通信故障後の各局の動作状態は関連マニュアルを参照し、システム全体が安全側で動作するようにインターロック回路を構成することが注意されています。異常停止後の復帰動作全般の考え方はPLC異常停止後に安全復帰する設計方法でまとめています。
PLC間通信は、つながったときよりも、切れたときの設計が重要です。
よくある勘違い
勘違い1:Field BasicならFX5同士を簡単にリンクできる
CC-Link IE Field Basicは、FX5のEthernetポートで使える場合があるため、FX5同士のリンクに使えると思いがちです。
しかし、Field Basicは主にリモート局を接続するためのネットワークです。PLC同士を対等につなぐ用途では、ローカル局がない点が制約になります。
勘違い2:CC-Link IE Field BasicとSLMPは同じようなもの
どちらもEthernetを使いますが、目的が違います。
CC-Link IE Field Basicは、サイクリック通信でリモートI/Oなどを扱うためのネットワークです。一方、SLMPはPLCデバイスの読み書きに使う通信方式として考えると分かりやすいです。両者の違いはCC-Link IE Field Basicとは?でも比較表にまとめています。
勘違い3:BasicだからPLC間通信も簡単にできる
Basicという名前から、簡単なPLC間通信に向いているように見えます。
しかし、実際には「簡単なPLCリンク」ではなく、「簡単にフィールド機器をネットワーク化する」ためのものと考えた方が良いです。
まとめ
CC-Link IE Field BasicでPLC間通信できるのか、という問いに対する結論は次の通りです。
CC-Link IE Field Basicは、PLC間通信の本命ではない。リモートI/Oやインバータなどのフィールド機器接続向けと考える方が安全。
ポイントを整理すると、
- CC-Link IE Field Basicは汎用Ethernetを使うFAネットワーク
- FX5ではCPU内蔵Ethernetで使える場合があるが、ローカル局の接続には対応していない
- そのためPLC間通信の本命ではない
- FX5同士のデータ共有ならSLMP通信を検討する
- 本格的なPLC間通信ならCC-Link IE FieldやTSNも候補
- 通信異常時の安全設計が最重要
現場で迷ったら、次のように判断すると分かりやすいです。
リモートI/O・インバータをつなぎたい
→ CC-Link IE Field Basic
PLC同士でD/Mデバイスをやり取りしたい
→ SLMP通信
複数PLCで本格的に周期通信したい
→ CC-Link IE Field
高速同期・将来拡張まで考えたい
→ CC-Link IE TSN
CC-Link IE Field Basicは便利なネットワークですが、PLC間通信に使うものと決めつけると、後で設計が苦しくなる可能性があります。
まずは、 「相手はPLCなのか、リモートI/Oなのか」 「やり取りしたいのは接点情報なのか、Dレジスタなのか」 「通信が切れたときにどう止めるのか」 を整理してから通信方式を選ぶのが、実務では一番安全です。
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