はじめに
三菱PLCを使った設備設計をしていると、ネットワーク設定でよく出てくるのが CC-Link IE Field Basic です。
名前だけ見ると、
- CC-Linkと何が違うのか
- CC-Link IE Fieldとは別物なのか
- PLC間通信に使えるのか
- Ethernet通信やSLMPとはどう違うのか
が分かりにくいと思います。
結論から言うと、CC-Link IE Field Basicは、 汎用Ethernetを使って、リモートI/Oやインバータなどを簡単にネットワーク接続するためのFAネットワーク です。
三菱電機の説明では、CC-Link IE Field Basicは専用ASICを使わず、ソフトウェアのみの実装でサイクリック通信を実現するネットワークとされています。CC-Link協会でも、汎用Ethernet技術を活用し、高速制御が必要ない小規模システムに適したネットワークと説明されています。
この記事では、CC-Link IE Field Basicについて、カタログ的な説明ではなく、現場で使う目線で整理します。三菱・キーエンス両PLCの使い分け全般については三菱PLCとキーエンスPLCの比較記事もあわせてご覧ください。
CC-Link IE Field Basicを一言でいうと
CC-Link IE Field Basicを一言でいうと、
Ethernetケーブルで使える、簡易版のCC-Link IE Field
です。
ただし、ここでいう「簡易版」は悪い意味ではありません。
専用のネットワークユニットを追加しなくても、CPU内蔵Ethernetポートで使える場合があり、小規模な設備では非常に扱いやすいです。
例えば、FX5シリーズでは、CPUユニットにCC-Link IE Field Basicのマスタ局機能が内蔵されており、リモート局を接続できます。三菱電機のiQ-Fシリーズ説明では、FX5U/FX5UC CPUユニットで最大16台、FX5UJ/FX5S CPUユニットで最大8台、FX5-ENETでは最大32台とされています。
⚠️ ファームウェアバージョンに注意
FX5U/FX5UCで最大16台まで接続するには、CPUユニットのファームウェアバージョンが1.110以降である必要があります。三菱電機の公式FAQでは、この条件を満たさない場合は接続台数がより少なくなるとされています。既設のFX5を流用する場合は、増設前に必ずファームウェアバージョンを確認してください。
つまり、設備内で少し離れた場所にI/Oを増設したい場合や、インバータ・リモートI/OをEthernetで接続したい場合に向いています。
CC-Linkファミリーの中での位置づけ
CC-Link系のネットワークには、いくつか種類があります。
| 種類 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| CC-Link | 既設設備で多いフィールドネットワーク | 専用ケーブル、従来型 |
| CC-Link IE Field | 高速・大規模なフィールドネットワーク | 1Gbps、ローカル局あり |
| CC-Link IE Field Basic | 小規模・低コスト向け | 汎用Ethernet、100Mbps |
| CC-Link IE TSN | 高速・高精度同期向け | TSN対応、将来性が高い |
CC-Link IE Field Basicは、CC-Link IEの中でも、より簡単にネットワーク対応するための位置づけです。三菱電機は、CC-Link IE Field Basicについて、CC-Link IEの一部であり、より簡単にネットワーク対応できるものと説明しています。
現場感覚で言えば、
- 本格的な高速制御ならCC-Link IE Field
- 小規模なI/O増設ならCC-Link IE Field Basic
- 将来の高速同期やIT連携まで見るならCC-Link IE TSN
という使い分けになります。
CC-Link IE Field Basicでできること
1. リモートI/OをEthernetで接続できる
一番分かりやすい用途は、リモートI/Oの接続です。
従来であれば、PLC盤からセンサや電磁弁まで多芯ケーブルを引き回す必要がありました。
CC-Link IE Field Basicを使えば、設備の離れた場所にリモートI/Oを置き、Ethernetケーブルで接続できます。
これにより、
- 配線本数を減らせる
- 盤間配線を簡略化できる
- 後からI/Oを増設しやすい
- I/Oの状態をネットワーク経由で見やすい
というメリットがあります。
小規模設備では、これだけでも十分価値があります。
2. インバータなどの機器をネットワーク接続できる
CC-Link IE Field Basicは、リモートI/Oだけでなく、対応するインバータなどの機器接続にも使われます。
従来のように、
- 正転指令
- 逆転指令
- 周波数指令
- 運転中信号
- 異常信号
を個別配線する代わりに、ネットワーク経由でやり取りできます。三菱インバータFR-Eシリーズのパラメータ設定については三菱インバータ FR-Eシリーズ 基本パラメータ設定ガイドでも解説しています。
これにより、配線を減らせるだけでなく、運転状態や異常内容もPLC側で扱いやすくなります。
単純なON/OFFだけでなく、状態監視までしたい場合に有効です。
3. 汎用Ethernetと同じ配線資材を使いやすい
CC-Link IE Field Basicは、汎用Ethernet技術を活用したFAネットワークです。三菱電機のiQ-Fシリーズ説明でも、汎用Ethernetを活用したFAネットワークであり、ソフトウェアのみの実装でサイクリック通信が可能と説明されています。
現場では、これはかなり大きなメリットです。
専用ケーブルではなく、Ethernetケーブルを使う構成にできるため、
- 資材を入手しやすい
- ハブを使ったスター配線がしやすい
- 盤内・設備間の配線を整理しやすい
- 既存Ethernet機器との親和性が高い
という利点があります。
ただし、FA用途なので、何でも一般事務用LANと同じ感覚で良いわけではありません。ノイズ環境や配線ルート、ハブの選定は注意が必要です。
4. TCP/IP通信と混在できる
三菱電機は、CC-Link IE Field Basicについて、汎用Ethernet技術を活用しているため、TCP/IP通信、HTTP、FTPなどとの混在が可能と説明しています。
これは、PLC・GOT・上位PC・ネットワーク機器を同じEthernet系の考え方で扱いやすいということです。
ただし、実務上は何でも同じハブにまとめればよいという話ではありません。
設備制御用の通信と、事務所ネットワークや無線LANなどを安易に混在させると、通信負荷やセキュリティ面で問題になる可能性があります。
現場では、
- 制御用ネットワーク
- 上位監視用ネットワーク
- 事務所LAN
- 無線LAN
は、目的ごとに分けて設計する方が安全です。
CC-Link IE Field Basicでできないこと・苦手なこと
ここが一番重要です。
CC-Link IE Field Basicは便利ですが、万能ではありません。
1. 高速・高精度な同期制御には向かない
CC-Link IE Field Basicは、小規模装置や高速制御を必要としない用途向けと説明されています。
そのため、サーボ同期やモーション制御のように、非常に高いリアルタイム性が必要な用途には向きません。
このような用途では、
- CC-Link IE Field
- CC-Link IE TSN
- モーション専用ネットワーク
を検討するべきです。
Field Basicは、あくまでリモートI/Oや簡易機器接続向けと考えた方が安全です。
2. PLC間通信の本命ではない
ここは誤解しやすいポイントです。
CC-Link IE Field Basicは、PLC間で自由にデータを共有するためのネットワークというより、マスタ局とリモート局の接続に向いたネットワークです。
CC-Link IE Field Basicではローカル局の接続ができないため、PLC間の通信手段とはならず、入出力ユニットやインバータなどの機器接続に特化しているという解説もあります。この点はCC-Link IE Field BasicではPLC間通信できるのか?で詳しく検証しています。
そのため、FX5同士でデータをやり取りしたい場合は、CC-Link IE Field Basicだけで考えるよりも、
- SLMP通信
- ソケット通信
- Ethernet通信
- CC-Link IE Field
- CC-Link IE TSN
などを用途に応じて検討した方がよいです。FX5実機でのSLMP通信の設定手順はSLMP通信の設定手順【FX5実機】で解説しています。
現場でよくある誤解は、
Ethernetでつながるなら、PLC間リンクにも使えるはず
という考え方です。
しかし、CC-Link IE Field Basicは「PLC同士を対等につなぐ」というより、マスタがリモート局を管理するイメージです。
3. 大規模ネットワークには向かない
CC-Link IE Field Basicは、小規模向けのネットワークです。
FX5シリーズの場合、接続可能台数はCPUやユニットによって異なります。三菱電機のiQ-Fシリーズ説明では、FX5U/FX5UC CPUユニットは16台、FX5UJ/FX5S CPUユニットは8台、FX5-ENETは32台とされています。
そのため、設備全体で多数のI/O局や複数ラインをまとめるような大規模構成では、最初からCC-Link IE FieldやCC-Link IE TSNを検討した方がよい場合があります。
Field Basicは、
- 小型装置
- 部分的なI/O増設
- 盤間の簡易通信
- インバータ数台の制御
のような用途で使いやすいネットワークです。
CC-Link IE FieldとCC-Link IE Field Basicの違い
名前が似ているので、ここは比較しておきます。
| 項目 | CC-Link IE Field | CC-Link IE Field Basic |
|---|---|---|
| 通信速度 | 1Gbps | 100Mbps |
| 主な用途 | 高速・大規模なフィールド制御 | 小規模・簡易な機器接続 |
| 専用性 | 専用ユニットを使う構成が多い | CPU内蔵Ethernetで使える場合がある |
| ローカル局 | あり | なし |
| PLC間通信 | 構成により対応しやすい | 本命ではない |
| 向く設備 | 大規模ライン、高速制御 | 小型装置、リモートI/O、インバータ |
ある技術レポートでは、CC-Link IE Field Basicは100Mbps、ローカル局の接続なし、リング型なし、CC-Link IE Fieldは1Gbps、ローカル局接続ありといった比較がされています。
ざっくり言うと、
Fieldは本格派、Field Basicは簡易・低コスト派
です。
SLMP通信との違い
CC-Link IE Field Basicと混同しやすいのがSLMP通信です。
どちらもEthernetを使うため、同じように見えます。
しかし、目的が違います。
| 項目 | CC-Link IE Field Basic | SLMP |
|---|---|---|
| 主目的 | リモートI/Oや機器との周期通信 | PLCデバイスの読み書き |
| 通信イメージ | マスタ局とリモート局 | 要求・応答型通信 |
| 用途 | I/O制御、インバータ制御 | PLC間通信、上位PC通信、データ取得 |
| 設定 | ネットワーク構成・局設定 | IP、ポート、読書きデバイス指定 |
CC-Link IE Field Basicは、周期的にI/Oデータをやり取りするネットワークです。
一方、SLMPは、相手機器のデバイスを読んだり書いたりする通信です。
そのため、PLC間でDレジスタやMデバイスをやり取りしたい場合は、SLMPの方が考えやすいケースがあります。設定手順の詳細はSLMP通信の設定手順【FX5実機】にまとめています。
現場での使いどころ
CC-Link IE Field Basicが向いているのは、次のような設備です。
向いている設備
- 小型自動機
- リモートI/Oを少し増設したい設備
- インバータを数台ネットワーク接続したい設備
- 盤間配線を減らしたい設備
- 既存のFX5で簡単にネットワーク化したい設備
- 高速同期までは不要な設備
向いていない設備
- サーボ同期が必要な設備
- 高速モーション制御
- 大規模ライン全体の制御
- PLC間で大量データを共有する設備
- 停止できない重要ラインの中核ネットワーク
Field Basicは、便利ですが「何でもできるネットワーク」ではありません。
特に、PLC間通信や大規模制御に使おうとすると、後で制約にぶつかりやすいです。
実務で注意すべきポイント
1. ハブは産業用を選ぶ
Ethernetだからといって、事務用の安価なハブをそのまま使うのはおすすめしません。
制御盤内や設備周辺では、
- ノイズ
- 温度
- 振動
- 電源瞬断
- アース環境
の影響を受けます。
そのため、設備用途では産業用スイッチングハブを使う方が安全です。
特に、無線APやGOT、上位PCなども同じネットワークに入る場合は、通信負荷やポート数にも余裕を持たせるべきです。
2. IPアドレス管理をきちんと行う
Ethernet系ネットワークでは、IPアドレスの重複がトラブルの原因になります。
最低限、次の情報は管理表に残しておくべきです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 機器名 | PLC、GOT、リモートI/Oなど |
| IPアドレス | 例:192.168.3.10 |
| サブネットマスク | 例:255.255.255.0 |
| ポート番号 | 必要な場合 |
| 設置場所 | 盤内、操作盤、装置右側など |
| 備考 | 予備、将来増設など |
後から設備を改造するとき、IP管理表がないと非常に苦労します。
3. 通信異常時の動作を決めておく
ネットワーク機器を使う以上、通信異常時の動作設計は必須です。
例えば、
- 通信断で出力をOFFするのか
- 最終状態を保持するのか
- 異常停止にするのか
- ワーク搬送中ならどう止めるのか
- 復帰時に自動再開するのか
を決めておく必要があります。
特に、インバータやロボット、搬送装置が絡む場合は、通信断時に危険側へ動かないように設計します。
三菱電機のマニュアル系資料でも、通信故障後の各局の動作状態は関連マニュアルを参照し、システムが安全側で動作するようインターロック回路を構成することが注意されています。異常停止からの復帰動作全般の考え方はPLC異常停止後に安全復帰する設計方法でまとめています。
ありがちな勘違い
勘違い1:CC-Link IE Field BasicはPLC間通信に使うもの
これは半分間違いです。
名前に「Field」とある通り、基本はフィールド機器接続向けです。
PLC間でデータをやり取りしたい場合は、SLMPや他のEthernet通信も含めて検討した方がよいです。
勘違い2:Ethernetだから普通のLANと同じ扱いでよい
これも危険です。
配線材やハブは似ていますが、用途はFA制御です。
事務所LANやインターネット接続と同じ感覚で混在させると、通信負荷・セキュリティ・保守性の面で問題になる可能性があります。
勘違い3:Basicだから性能が悪い
Basicという名前なので下位互換のように見えますが、用途が違うだけです。
小規模装置でリモートI/Oを扱う程度なら、むしろ設定しやすく、コストも抑えやすいです。
大事なのは、用途に合っているかどうかです。
まとめ
CC-Link IE Field Basicは、汎用Ethernetを使ってリモートI/Oやインバータなどを接続できる、小規模向けのFAネットワークです。
ポイントをまとめると、次の通りです。
- 汎用Ethernetを活用したFAネットワーク
- 専用ASICなしでサイクリック通信を実現
- 小規模装置や高速制御が不要な用途に向く
- FX5シリーズではCPU内蔵Ethernetで使える場合がある
- リモートI/Oやインバータ接続に使いやすい
- PLC間通信の本命ではない
- 高速同期や大規模制御には向かない
- 通信異常時の安全設計が重要
現場目線で言えば、CC-Link IE Field Basicは、 小規模設備の配線削減とネットワーク化にちょうどいい通信方式 です。
ただし、PLC間通信や高速制御まで任せようとすると、用途がずれてきます。
設備設計では、 「何をつなぎたいのか」 「どのくらいの速度が必要か」 「異常時にどう止めるか」 を先に決めてから、CC-Link IE Field Basicを使うかどうか判断するのが安全です。
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