前回の記事では、KV-5500の実経験をもとにKV-8000のデバッグ設計思想を評価しました。「編集後記」でお伝えしたとおり、本記事はその続編です。三菱統一の現場にいる私が、同じ職場で実践している「対抗策」をまとめます。
本記事にはアフィリエイトリンクが含まれています。
結論:「三菱は遅い」は設定不足
三菱電機のGX Works3は、多機能ゆえに「設定を自分で追い込まなければならない」という特性があります。裏を返せば、 「三菱は遅い」のではなく「診断機能を使いこなせていない」 ケースがほとんどです。
KV-5500のリアルタイムチャートモニタやドライブレコーダに相当する機能は、三菱環境にも存在します。問題は「デフォルト設定のままでは機能しない」点であり、ここに三菱デバッグの本質的な壁があります。
以下の4つの作法を徹底することで、三菱環境でのデバッグ工数は大幅に削減できます。
作法1|CPUユニットロギングで「ドライブレコーダ」を自前構築する
キーエンスのドライブレコーダ機能の本質は、 「意識せずとも過去の挙動を追える」 という自動性にあります。三菱でこれを再現するには、デバッグ初期段階でCPUユニットロギング機能を仕込んでおく必要があります。
iQ-R・iQ-Fシリーズには標準でこの機能が搭載されていますが、現場で活用しているエンジニアは少数派です。
使い分けの基本
| 機能 | 用途 | キーエンスでの相当機能 |
|---|---|---|
| リアルタイムモニタ | 数秒〜数分の短い挙動・タイミング確認 | リアルタイムチャートモニタ |
| CPUユニットロギング | 1日〜1週間単位の不定期エラー捕捉 | ドライブレコーダ機能 |
「たまにしか起きない不具合」は、PCを繋いで待っている時には発生しません。デバッグ初期に以下を仕込んでおきます。
- トリガ条件: エラーフラグの立ち上がりや工程番号の異常値をトリガに設定する
- バッファリング: トリガ前後のデータを記録することで、「なぜそのフラグが立ったのか」を後から遡れる
SDカード選定の落とし穴
「三菱のロギングは書き込みが遅い」という声は、多くの場合、市販の低速SDカードが原因です。三菱純正またはSanDisk産業用グレードの高速SDカードを使用し、書き込み負荷を分散させることで、スキャンタイムへの影響を抑えつつ確実にデータを捕捉できます。
作法2|リアルタイムモニタの最適化:USB直結とサンプリング固定
GX Works3のリアルタイムモニタが「カクつく」「波形が乱れる」と感じる原因の多くは、通信経路とサンプリング設定のミスにあります。
USB直結を選ぶ理由
LAN経由(特にHUB経由)でモニタすると、CC-Link IE等の他のネットワークユニットと通信帯域を共有するため、描画速度が不安定になります。デバッグ時は迷わずUSB直結(Mini-B/Micro-B)を選択してください。USBの帯域を独占することで、波形描画のカクつきを劇的に軽減できます。
サンプリング周期は「時間指定」で固定する
デフォルトの「スキャン同期」は、演算負荷の大きいプログラムでは描画間隔が変動し、タイミングの微細なズレを見逃す原因になります。
- 推奨: サンプリング間隔を時間指定(例:10ms)で明示的に固定する
- デバイス数の上限: 同時モニタするデバイスは16個以内に絞ることで波形データの欠落を防ぐ
キーエンスのリアルタイムチャートモニタが「設定不要で即座に動く」のに対し、三菱は「この2点を設定してから動かす」という違いが本質です。
作法3|デバッグ用デバイス設計:ラベルに依存しすぎない
最近はラベルプログラミングが主流ですが、デバッグ速度の観点ではラベル名が長すぎたり、構造体の中に隠れたデバイスを探す手間が作業を鈍らせることがあります。
デバッグ専用の物理デバイス領域を確保する
プロジェクト作成時に「デバッグ専用の物理デバイス領域」をあらかじめ予約しておきます。
- 例:
D10000〜D10999はデバッグ用一時格納、M10000〜 は強制ON/OFF用
ラベル管理外のフリーデバイスを用意しておくことで、現場で急遽「一時的に数値を保持したい」「フラグを強制的に立てたい」となった際に、グローバルラベルを定義して書き込むという手間をスキップできます。
ウォッチウィンドウの「名前付け保存」
GX Works3のウォッチウィンドウは複数タブを切り替えられます。「サーボ軸用」「通信状態用」「工程歩進用」など用途別にデバイスリストを事前に作成し、プロジェクトファイル(.gx3)と一緒に保存しておきます。現場に着いてからデバイスを手打ちしている時間は、完全に無駄です。

知識ゼロから楽しく学べる! PLCプログラミング入門(三菱電機GX Works2)
作法4|シミュレータ活用:現場に入る前に9割潰す
キーエンスエンジニアが高い生産性を発揮できる理由の一つに、PC上でのロジック検証を多用する文化があります。三菱でも、GX Simulator3とGT Designer3の連携により、ほぼ同等の机上デバッグが可能です。
- GX Simulator3での事前検証: 現場の盤へ書き込む前に、すべての分岐パターンをシミュレータで通す。非常停止中の自動起動やセンサ異常の同時発生など、実機では怖くてできない「意地悪テスト」も机上で完結できます。
- GT Designer3との連携: PCのPLCシミュレータとGOTシミュレータを接続し、実機に近いUIで操作感を確認する。
この「現場に入る前の追い込み」こそが、トータルの現場滞在時間を最小化する最大のコツです。
補足:オンライン変更のコンパイル時間問題
一点、三菱環境で解消しきれない弱点があります。GX Works3は構造化が進むほどオンライン変更時のコンパイル時間が長くなる傾向があり、これはキーエンスと比較して不利な点です。
現時点での現実的な対処は「プログラムの細分化」です。1ファイルを巨大にせず工程・機能ごとにタスク分割しておくことで、変更箇所のコンパイル範囲を最小化し、書き込み待ち時間を数秒単位で短縮できます。この問題については、別途まとめる予定です。
まとめ
| 作法 | キーエンスとの対応関係 | 効果 |
|---|---|---|
| CPUユニットロギング | ドライブレコーダの自前構築 | 不定期エラーの再現待ちを排除 |
| USB直結+サンプリング固定 | リアルタイムチャートへの近接 | 波形の乱れ・カクつきを解消 |
| デバッグ用デバイス設計 | 思考を止めない機動力の確保 | 現場での手戻り・検索時間を削減 |
| シミュレータ連携 | 机上デバッグ文化の導入 | 現場滞在時間を最小化 |
道具の差はゼロにはなりません。ただ、この4つの作法を標準化することで、三菱環境でのデバッグ工数はキーエンスとの差を実用上問題ないレベルまで縮められると考えています。
